「このッ、やめッ…ぁん!」
「説得力がないな」
猫の鳴くような、甲高い声で目が覚める。それが自分の声だとわかるのに時間はかからなかった。
「あッ、あ、あぁ、んあぁあッ!」
「喉が枯れる、もう少し押さえろ」
「む、むりぃ…ぁッ、んん!」
なんて無茶ぶりだ。
寝起き早々勝手に身体を弄られ犯されていた僕の気持ちは考えないらしい。そこがミシェルらしいが昨晩散々虐められた身としてはキツい。
必死で逃げようとする僕を後ろからガツガツと犯し本人は涼しい顔をしている。
「いたぁいッ、いやぁッ、ああッ…」
「…またイったか」
困った子のように気が遠くなっている僕の頭を撫でるミシェル。
昨晩は女の子のほうを執拗に虐められてしまった。さすがのミシェルも仏の心を出したのか今朝は後孔を犯されて僕はびゅくびゅくとイってしまってる。女の子のほうからも厭らしい汁をだしてしまっている僕に苦笑しながらそれでも犯すのをやめない。
「淫乱な身体」
「ひぅ...ぁあ...!」
嘲笑しながらそういうミシェルにはずかしくて死にそうになる。僕が羞恥心で死ぬか、ミシェルに腹上死させられるか、どっちみち僕が死ぬデッドレースだ。
「あっ、そこだめぇっ、はいっちゃだめっ、あああっ!!」
体位を変えより深いはいっちゃいけないところまで犯される。ダメだと言ってるのにミシェルは小刻みに揺らしながら奥を暴く。
僕は言葉にならない声をあげながら次第に快楽に溺れていった。いつもミシェルの自分勝手なセックスから逃げようとするけど結局は気持ちよくて逃げれなくなってしまう。淫乱だとかはしたないだとか嘲笑って僕を辱めるミシェルに泣きそうになりながらそれすら快楽に変えてしまう自分が憎い。
次第に今まで以上に激しくナカを突かれミシェルの身勝手なラストスパートに僕はひどく鳴いた。
身体の最奥に、熱い液体を流し込まれる。身体に力が入らない。もう何回イってしまったのかもわからないし自分が何をしようとしてたのかも忘れてしまった。ミシェルの低い声にぼんやり目を向けると放心状態の僕から肉棒を抜きさっさと自分だけ服装を整え部屋の外へ行ってしまった。甘い言葉も労りの言葉もない。身勝手で我儘な男、それがミシェルだ。そんなの知っていたけど少しは甘えさせてほしい。幼い頃、頬を撫でられ額にキスをされることより今されてるみたいな事をされたかったけど今では逆だ。とびっきり子供扱いして甘やかしほしい。
「ぁ...」
とろりと、身体の中から精液が零れてくる。お風呂はいらなくちゃ、と思うけど体が言うことを聞いてくれない。お風呂...だけど、眠い...
僕は欲望のまま眠りの世界に溺れた

──

「ん.....」
「お目覚めになりましたかユリシア様」
「ナゼルさん」
自分の余りに掠れてる声にびっくりする。
目の前にいたのはミシェルの専属執事でもあるナゼル・ロイヤードさんだった。
「湯加減はどうですか?」
「ん、気持ちいい」
どうやら僕はいつの間にかバスルームに運ばれお風呂にいれられてるらしかった。どうしてナゼルさんかというと僕の身体に触れるのをこの屋敷では数人の侍女とナゼルさんぐらいにしかミシェルが許してないからだ。女の子に後始末をさせるのは死んでしまいたくなるので失神したりしたときはナゼルさんが世話をしてくれる。
「御髪を洗わせて頂きますね」
ゆっくりとお湯をかけ優しい手つきで髪を洗われる。ミシェルが大好きな僕の金髪はそこそこ伸ばされておりたまに女の子に間違われるくらいだった。
シャンプーからのトリートメントそしていい香りのオイルをたっぷりつけられ軽くリボンでまとめられる。僕はこの時間が好きだ。
身体はすでに洗われていたようで気まずい思いをしなくて安心した。
「綺麗な金髪ですね」
「...ミシェルが僕のことを見捨てない理由の一つだから、大切にしないと」
「見捨てるなんてそんなこと、ユリシア様は旦那様にとても愛されていますよ」
「そうだと思えたらいいんだけど」
「ユリシア様...」
「...しばらく1人にして。大丈夫、のぼせる前に上がるから」
「わかりました」
物分りのいい執事は「失礼します」と言ってバスルームから出ていった。
瞬間、僕はなんとか張り詰めていた気持ちが壊れてしまう。
男なのに、涙が零れてきてどうしようもない。最近ミシェルに大切にされたのはいつだろう?無理矢理じゃないセックスをしたのはいつだっけ?昔みたいに髪を撫でて本を一緒に読んで紅茶を飲むことも忘れてしまわれているみたいだった。
「う、ううう...」
こんな姿、ミシェルに見られたら幻滅される。
鬱陶しいと思われたくない。面倒臭いと感じられたくない。
だけど僕は泣き止むことができなかった

「──ユリシア、いつまで待たせる気だ」

1番、聞きたくなかった声に僕は硬直してしまう。
今日は仕事は休みだからかラフな細いストライプのワイシャツと黒のパンツスタイルのミシェルが不機嫌な顔をしながらバスルームに入ってきた。
涙が頬を伝っている僕の顔見て久しぶりに見たぐらい最強に不機嫌な顔をする。そんなミシェルに慌てて泣きやもうと思って目を拭うけど余計涙が頬を伝う。
そうするともっと機嫌が悪い顔をして僕のそばへ来る。

「ユリシア」
「ご、ごめんなさいっ.....」

「どこか痛むのか」

考えもしなかった言葉に目を白黒させる。
勘違いしたままミシェルは話す。

「昨日から激しくしすぎてしまったか?今すぐ医者呼ぶから風呂から上がれ」

そうして去っていこうとするミシェルを

「...ユリシア?」
「...ごめんなさい」
シャツのすそをつかむ。すぐ濡れてしまったのを見て慌てて離す。
「風呂から上がれないほど辛いのか」
瞬間、裾をまくりもしないで湯船に腕を突っ込み僕を抱き上げる。
「ミシェル、まって─!」
「声も酷い、静かにしてろ」
「ミシェル!」
「静かに」
結局僕はバスルームから連行されていってしまった。

──

「旦那様、後でお話が」
「面倒臭い今言え」
顔を顰めながら医者がいう。
結局僕は勘違いを直すことが出来ないまま医者に診察をされたのだ。
「それでは言わせてもらいますが、もう少しユリシア様のお身体のことを考えて性行為には及んだ方がいいかと!」
「十分考えている」
「いいえ考えていません!」
医者とミシェルは激しく口論をし始めてしまった。
内容が内容なので僕は真っ赤になりながらふたりの間に挟まれるしかない。

「──ユリシアはどうなんだ?」
「え?」
「私とのセックスは嫌なのか」

そんな、こと
嫌なわけじゃない、だけど、今の僕達の状態でそういうことをすると...胸が苦しくなる。
即答できず固まってしまった僕にミシェルは答えを促す。

「僕は...」
「僕は?」

「嫌っ、です!!」

何故か敬語になりながらそう大声で言った僕に一瞬にして部屋中にミシェルのブリザードが吹き荒れた。
僕は怖くなってミシェルが口を開く前にガクガクの手足をうごかして部屋から逃げ出したのだ。

──

「心配、してるかな」
心配して欲しい。僕のことを探してほしい、そんな身勝手な思いが心の中をぐるぐるする。
きっと部屋で優雅にコーヒーでも飲んでるのだろうけど、夢を見るのは自由だ。
「眠いなぁ....」
最近夜毎に犯されあまり寝ていない身体は眠い。
僕がミシェルから逃げ出した場所は庭園のガゼボだった。見つからないように奥のスペースに座っていて差し込む陽の光が足元を照らしている。こんなにも世界は明るいのに自分はもうどうしたらいいかわからない。
眠くて眠くてあまり何も考えられない。
「少し、だけ...」
寝てしまってもいいだろう。

──
「ん....」
頭を撫でられているような感覚にゆっくり目を開ける。
ぼんやりと開けた瞳に映ったのはアイスブルーの瞳と白金の髪。
「ミシェル....?」
どうして
僕が目を覚ましたらミシェルは撫でるのを辞めてしまった。
「ユリシア」
低く、どこか切なそうな声。
なんだかミシェルが悲しそうに見えてそっとミシェルの頬に手を伸ばした。冷たい感触、僕が昔されたように頬を撫でる。
そうするとミシェルはその感覚に集中するように目を閉じて僕の手首にキスをした。

「すまなかった」

突然の謝罪に僕は驚く。
ミシェルは目を閉じたまま続けた。

「お前が嫌がってると、本当はわかっていたのに。勝手な嫉妬心で酷いことをした。」

嫉妬心とは、なんのことだろうか?
そんな僕の疑問をいう前にミシェルは続けた。

「お前が、ユリシアが大人になってさらに魅力を纏っていく。召使いや外の人間もユリシアに魅了されていく。それが耐えられなかった。」
「そんなこと」
「...ここ最近で本当に綺麗になった。もとから美しかったが...大人になっていくのを感じる。お前は美しい」
その言葉に、僕は嬉しいやら気恥しいやらでどう反応していいかわからなかった。
「本当はどう接していいかわからなかったのかもしれん」
「ミシェル...」
「そのせいでつい乱暴に手ひどく扱ってしまった。セックスのときの私だけを見ている瞳や冷たくあしらった時の泣きそうな顔が、心地よかった」
身勝手な理屈、だけど僕は嫌われていたワケじゃないのだとわかってほっとしてた。
我儘な男、それがミシェルだけど、それだけじゃない。隠れた優しさに不器用な愛、それが僕に何度だって恋をさせる。
「本当にすまなかった」
また、涙がこぼれてしまう。
はらはらと涙をこぼす僕を辛そうに見るミシェル。
「嫌われたっていい。私の元から離れたいのならば──」
「──そんなことあるわけない」
これだけは断言できる。僕はミシェルを嫌いになることは無い。
「...どうすれば、償える?」
「...優しく、キスして。それで大切な言葉を言ってよ」
僕のワガママ
ミシェルは少し驚いたようだ。しかし久しぶりに見るくらい柔らかく微笑み、僕のことを抱き寄せた。
ミシェルの膝の上に座らされて優しく、甘いキスを何回もされる。
くすぐったくて幸せで少し笑ってしまう僕につられてミシェルも笑う。

「──愛してる、一生離さない」

「僕も、愛してる。一生離さないでね」

そうするとまた優しいキスの雨
だけど僕はわがままなので次第の物足りなくなってきて深いキスをねだる。少し躊躇してるミシェルに僕の方から仕掛けるとお返しの激しいキス。
彼の白金の髪をわざとぐしゃぐしゃにする。後で怒られてしまうだろうけど、今は考えない。
──ああ、幸せだ。
キスがおわったら一緒に散歩しよう。紅茶を飲んでケーキたべてお話する。きっとミシェルは居心地悪そうにするだろうけど逃がしはしない。そしたらまたキスをしてそして....
未来予想図は尽きることがなくてやりたいことは腐るほどある。一つ一つ消化してミシェルに償わせてやる。

──うん、楽しみだ。
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