秋の冷たさがどこか漂う夜の中、僕と彼はめんどくさい社交行事に参加していた。
「狼の紋章…」
「無駄な言葉なら口を閉じろ」
そんな、冷たい言葉に僕はめげるほど繊細にできていない。
彼、ミシェル・ドニ・ラリュイエールなんて大層な名前を持った男…僕の愛しい恋人であるミシェルが指にはめていたピジョンブラッドのルビーに彫られたラリュイエール家の紋章である狼と剣。どうやってつくられたかもどこから持ってきたかも謎という少し怖いその指輪の禍々しい輝きは僕を少し怯えさせる。
怖くなってしまった僕は誰にも見えないようにミシェルのスーツの袖を引っ張る。そんなぼくを一瞥したミシェルは何も不自然なことはないように僕の頬をその冷たいてのひらで強く撫でた。
…本当はもっと大人な扱いがいい。
頬を撫でられるのも額にキスをされるのも嫌いじゃない。だけど、もっとその先を望んでしまうのは罪深いことなのだろうか?
ぼんやりと彼の指をみる。白くて男性にしては細い…だけど女性というには骨ばっている指。
「…物欲しそうな顔をするんじゃない」
「…本当に欲しいんだもん」
「残念だが家宝だからな…やれるにやれん」
指輪のことじゃないのに、勘違いしたまま話すミシェルにさらに不満が募ってしまう。

「――おや、珍しいお二人だ!」

そんな僕たちの前に現れたのは黒髪に夜の海の様な青い瞳をした美しい男。
ミシェルの友人であるレイリア・ラ・フェリシ男爵だった。
「――自分の家で行う催し物にでないほうがおかしいだろう」
馬鹿にしたように喉を鳴らして笑うミシェル。
僕といたときはそんな笑いさえしなかったのに。
「社交場に出てこないミシェル・ドニ・ラリュイエールは自分で開催した催し物さえ放棄するのかと思っていたんだが…それは間違いということか」
そうして旧知の仲である二人は大人の社交をはじめてしまう。
まだ子供なぼくにはよくわからない話ばかりで何度か割り込もうとしたがすぐついていけなくなってしまう。
…つまらない、つまらないよ
ただの退屈、なんかじゃなくて僕は嫉妬をしてしまってる。まだ子供なぼくよりフェリシ男爵のほうがミシェルにふさわしい気がして僕よりミシェルを知っている気がして気分が悪い。

「……眠くなってきたから部屋戻ってるね」
「――ああ、おやすみユリシア」

拗ねてる僕のことなど気づきもしないで、額へのキスすらなくあっさりとミシェルは僕を放した。
…本当に、つまらない


                     ―

「ああもうッ!」
ラリュイエール家の敷地は広大だ。パーティーが行われている比較的正門に近いホールを持った離れから僕とミシェルが暮らしている本邸までは距離がある。
渡り廊下を歩いて客室があるもう一つの離れを抜けていく。まだパーティーが行われているからか客室に引きこもっている人間は少なくて十分に僕は悪態をつけるというわけだ。
ほのかに温められた室内は僕の頭を冷やしてくれず窓辺に浮かぶ月に惹かれるように僕は外に出た。

庭は怖いほど音がなかった。
綺麗に切りそらえられている薔薇は妖しく咲く。
足元は昨日の雨のせいかぬかるんでいた。
しばらく歩いたところでベンチに腰掛け月を見る。
秋の夜は少し寒い、だけどそれが気持ちがいい。この静寂と冷気のなかでいられたら、僕はとても冷静でいられるのに。ミシェルとあのきらびやかな世界が僕をおかしくする。
ズキ、と頭が痛むのを感じた。
また今月もアレがやってきてしまう前兆だろう。身体を冷やすのはよくない、だけど部屋に戻る気には到底なれなかった。おなかに手を当てて考え込む。もしかしてミシェルが僕に手を出してくれないのはこの体のせいなのだろうか。男と女の性がある身体だなんて気持ちが悪くて触れる気になれないのかな。
気分が、沈んでいく。
抱きしめられたい、そんなことはないと唇にキスをしてほしい。だけど世界がひっくりかえってもそんなことは起きない。僕は僕でミシェルは変わらない。
…そんな、彼の冷たさそして隠れている優しさに恋をしたはずなのにいまじゃそれが苦しくなっている。
身体に引きずられるように女々しくなる自分にさらに自己嫌悪が募る。

──ガシャン!

夜の静寂に響き渡る窓が割れた音に僕はびっくりしてそちらに目を向けた。
二階の灯がともされている部屋の窓が割れたみたいだった。近寄ってみるとガラスの破片といっしょに本が投げ出されていた。窓を割った原因はこれか。

「──その本、届けてもらえるかな?」

どうしようかと悩んでいたところ、姿は見せないまま
男の声がした。

「…窓、割っちゃたんだ?」

少し意地悪く問いかけてみる。
「ああだから証拠隠滅ってわけだよ」
「貴方の部屋じゃないの?」
「友人の客室だよ。さあ早くその本を」
しょうがない、どうせ暇してたし人助けをしてあげよう。
僕が屋敷の中の階段に向かおうとするのを見て、暗闇の人影は笑った。

「二階の、どこの部屋だっけ…」
部屋数が多くてよくわからない。ここはそこまで大切ではない客のフロアだ。
「もしもーし――」
「ここだよ」
うっすらと扉が開かれた。
その部屋の中から声がする。
よっぽど注意深いのか姿を見られたくないらしい。
「外に置いとくよ」
「ああちょっとまって…中まで届けてくれないかな」
「なんで?」
さすがに不審に思う。
「なんでもだよ…ちょっと手が離せなくて」
その時の僕は、めんどくさくてその行動と言葉の矛盾に気付いてなかったのだ。
やれやれ困ったお客さんだなぁと思いながら僕は部屋の中に入っていった。

                    ――

「いたいッ!」

部屋に入った瞬間、羽交い絞めにされる。
床への衝撃とその重さに喉から引き攣った声がでた。

「はぁはぁ…本物のユリシア・フェレール君だ…!」
「お、お兄さん離して…」

暗闇でうっすらとしか姿は見えないが、身体をひっくりかえされて両手を拘束された視界には男の姿が見えた。

「可愛いなぁ可愛いなぁ…」
「や、やめて気持ち悪い!」

鼻息荒く首筋をくんくんと嗅がれあまりの気持ち悪さに身を捩る。
『気持ち悪い』、そういった瞬間、頬に衝撃がきた。
「ひぅッ、な、な…」
あまりのことに、言葉が出ない。それほど強いものでもないだろうけど、僕には驚きで一杯だった。
「ユリシア君は僕に『気持ち悪い』なんて言わないよ」
その真顔と冷えた声に背筋が凍る。
僕も12なんだからこれから起こることは予想できてしまう。どうにか、逃げ出さなくちゃ…!
「お、お兄さん…ごめんね、だから手を放して…」
媚びへつらったその言葉に、男は気をよくした。
だけど――
「そうだね、僕の両手がふさがっていちゃ何もできないもんね」
そうして片手で僕の両手をつかみもう一つの手で懐から出したのは、手錠だった。
カチャン、と金属音を鳴らしながらそれがつけられるのを見る。

「さ、お兄さんと楽しいことしようね!」

男は、歪に笑った。


「いだぃッ、やぁッ、離してッ」
「まだあの男にここは触られてなかったのかなッ?すごい、可愛いね…」
胸の先端をちぎれてしまうのではいかというぐらい引っ張られる。
痛い、やめてと言ってるのに男は当然のことながら離してくれない。
あの男、とはミシェルのことだろう。
ミシェル、ミシェル、助けに来てよ……
だけど普段から行いの悪い僕には神様の手は差し伸べられない。
「まだ子供だから気持ちよくなれないのかな?…あ、でもアレを使えば」
男はぼそぼそと話し続ける。
僕は大きな声を出して助けを呼ぶけどみんなパーティーにでてるせいか、人は来ない。
「ちょっとはやいけど、こっちも見せてね」
そう言って、男がズボンに手を伸ばして――
「だめッ!!」
僕の秘密を見られたら、そしてそこを犯されてしまったら
本当に、ミシェルに愛してもらえる身体じゃなくなってしまう
必死で抵抗するが男はたやすくズボンを脱がし、下着を足から抜いた。

「はは…ユリシア君は天使だったんだ…!」
恍惚とした声でそういわれて僕はあまりの恐怖に震えることしかできなかった。
「毛も生えていない、綺麗だね…!」
「お願い、やめて…」
「寒いのかな、少しヒクヒクしてるね」
恥ずかしさと恐怖で言葉にならない悲鳴を上げる。
男の指が、ゆっくり女の子の秘所へはいっていく。
かさついた指の感触とか引き攣れる痛みとか言葉にならない嫌悪感、いろいろ混ざって身体は動いてくれない。
「ゃぁッ、ッ、ゃ…!」
「すごい締め付けてくるよ…可愛い…!」
悪夢は、終わってくれないらしい。


どのくらい時間がたっただろう。
何時間もたった気がするし10分しかたってない気もする。
男は僕の秘所をずっと弄っていた。
そして――
「お薬、気持ちいい?」
嫌悪感が、快楽に代わる。
秘所に入れられた錠剤は溶けだして体中のいたるところがむず痒い。
すでに喘ぎすぎて声にならない嬌声を上げる僕を男は満足そうに見た。
「ここもどろどろだね…」
散々弄られた秘所は痛みと熱を訴えていた。
…かちゃかちゃと嫌な音がする。
恐る恐る涙で濡れている瞳をあけると、男のおぞましいものがあった。
「はぁはッ…ちょっと狭いけど、はいるよね…?」
男は興奮に濡れ顔でそう言う。
はいらない、やめて、ここはミシェルにあげるために大切にしとくトコロで――!
男は僕の怯えた顔はお気に召したようだった。
前の性器の先端を指で押しつぶされる。痛みに乾いた悲鳴をあげると男はニタニタと笑う。
「やめ、て…!」
「そんなこといって君も欲しいんだろう?」
そんなこと、ない。
僕はどうにかにげたくて体を引きずって後退するけどすぐ壁際に追い込まれてしまう。
薬や恐怖のせいで身体はうまく動いてくれなくてがたがたと震えるしかない。
「淫乱で我儘な子猫ちゃんにはお仕置きが必要だなぁ?」
「いやぁ…!」
その時、男のポケットから硬貨が落ちた。
男は一瞬お金の音に目を向けて――
「いだぁッ!!」
野太い、声だった。
男が硬貨を見た隙に思いっきり男の股間をけりあげる。
膝立ちで僕に迫っていた男はその衝撃にふらつく。
僕は糸が切れた人形の様だったのに、その大声と男が弱ってる姿を見てなぜだか身体が動いた。
「お、まえッ!」
必死で入口まで走る
あと少し、あと少しで――

――ガチャ

僕が開く前に扉は開いた。
光に目がくらみだけど扉に向かって走っていた足は止まらなくて、そこにいた人物に激突して、倒れかけたところを抱きしめられた。
「ぁ……」
この香り、大好きなハーブの香り
「…ユリシア?」
その低い声の主はずっとききたかった声でとても動揺しているようだった。
一気に涙腺が壊れて、わんわんとなく。

「ユリシア君をはなせッ!!」

あの忌々しい男の声が、脳内を切り裂く。
僕を抱きしめていた彼は、ミシェルは僕を後ろに投げると…一発で男を沈めてしまった。
そのときのミシェルの顔はわからない。ただ、なんだかいつもと違う、いつもよりもっと怖い雰囲気だった。

呆然と座り込む僕を無言で見た後、上着をかけてくれる。
僕は随分とひどい恰好をしてたと思う。シャツはボタンがとれはだけていて下着もズボンもはいてない。靴下だけがまともという恰好。
また、泣き出した僕をお姫様抱っこで抱えると本邸まで連れて帰ってくれる。
その間会った執事さんに一言「209の客を拘束しろ」とだけ言った。怖いほど無言で僕は泣き止めないしこれからミシェルに嫌われるかと思うともっと怖くて余計泣きやめない。
ミシェルは、ずっと無言だった。

「…う、うううー…」
ベットに寝かされても泣きやまない僕を見てミシェルは無言で僕の足を開かせた。
「随分と、汚されたな」
女の子の場所を見ていってるのだろう。
「それに随分濡らしてる」
それは、薬のせいだと言葉にならない言葉で伝えるとミシェルはとても、険しい顔をした。
「――吐き気や頭痛はしないか?」
「だ、だいじょうぶ…だけど…」
身体が、疼く。
ソレを言えずに黙り込んでしまった僕の額にミシェルはキスをした。

「お前は何も悪くない」

そう一言告げて、初めてミシェルは僕の唇にキスをしたのだ。


「ぁ、あ、ああッ!」
「どうだ、楽になったか」
アイスブルーの瞳が、僕を射抜く。
まだ、おなかの奥がむずむずする…
達したのにまだ疼く淫乱な身体、恥ずかしくて、初めては全部ミシェルに捧げる予定だったのに…
「ごめんな、さい…」
「薬のせいだ。謝ることじゃない」
僕の謝罪を勘違いしてるミシェルにさらに申し訳なくなる。
「ここは、触られて気持ち悪くないか?」
そうして初めて触られている後孔を一本の指がぐちゃぐちゃにする。
「ミシェ、ルなら…全部、気持ちいい…ぁんッ!」
「…可愛いことを言うな」
ククッと喉を鳴らしながら笑ったミシェルに少し安堵する。
僕、嫌われているワケじゃないんだ。これからも少しでも好きでいてくれるのかな?
「はッ、あ、あぁ…!」
身体は疼くのに、眠気が襲ってくる。何度も射精したからだろうか…猛烈に眠い。
「…眠いのならば寝ていい」
「…うん、ミシェル…」
おやすみ、と言おうとしたが最後まで言えなかった。
…おやすみミシェル。

                      ――

「ぁ……」
「起きたか?」
「みしゃる…」
ふにゃふにゃとした僕の声。
ゆっくり周りを確認すると、僕はミシェルの膝の上に抱っこされながら湯船につかっていた。
「――今日から一週間は安静にしていなさい」
「一週間も!」
そしたら大好きなお散歩も芝生でのお昼寝もできない。
秋の日差しを浴びれないのは悲しい。
「…散歩ぐらいだったら、私が暇なときに一緒に行けばいい」
「お昼寝は?」
「もう冬も近いのだから風邪をひく。やめなさい」
ミシェルにそう言われたらしょうがないので僕はしぶしぶ頷いた。
「…体は痛いところはないか?」
「うん大丈夫」
「一応全身を洗っておいたが、気持ち悪いところは?」
「ないよ!」
そういうと、ミシェルは僕の頭にキスをした。
だから僕は少し不満げに大人ぶったことを言う。
「唇にキスはしてくれないの?」
「…しょうがないな」
てっきり、してもらえないかと思っていた僕は驚いてその熱い感触にびっくりする。
何回もついばむように優しいキス。
僕も送り返すとミシェルはくすぐったそうだった。

「…愛してるよユリシア」

「僕も愛してるっ、大好きっ!」

そう言って首元に抱き着くと、またあのハーブのいい匂いがして…僕はふにゃりと笑ったのだ。

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