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俺は今世紀最高で抜群な天才魔術師だ。現に、誰も成功したことない禁呪である異世界渡りを成功させてしまった。
…そう、成功させてしまった。


「これが異界からの花嫁か、どう見ても成人した男にみえるのだが?」
「へ、陛下…これはですね」
「言い訳はいい。あとは適当に処理しておけ」

陛下、と呼ばれた金髪紫瞳の美青年は青筋を立てながら背を向けた。
というか、処理ってどう考えても人間扱いじゃないよな。
そばに控えていた黒髪に青色の瞳の冷徹に見える男が一瞬俺の方を見て『陛下』になにかつぶやいた。
しかし『陛下』は首を振って取り合わなかったみたいだ。

「ってちょっとまてよ陛下さん!?」

なんでこんな男が召喚されたとかなんだとか聞かないんかい!

「…気安く呼ぶな、この下賤が」

―こいつ、マジむかつくな。
こちらを見る瞳は軽蔑の色は隠されていない。なら、手段はひとつ。魔術師でありながら脳筋でもある俺は陛下に無理やり術をかけて手元に移転させる。
「―なっ!?」
「んーいい匂い。陛下っていうからどんな高級シャンプーつかってんのかね」
「離せっ、この変態がっ!」
「女みたいな美人に言われても痛くも痒くもないね」
相変わらず抵抗をし続ける陛下の頭にチュッとキスをして俺は辺りを見渡した。

「えー… この偉そーな国王陛下は俺こと異世界の天才魔術師が誘拐する!気が済んだら返すから適当に過ごしててくれ!」

あまり決まらない台詞だ。自分のボブギャラリーの貧困さにうんざりしながら慄いて俺をみる周りの騎士とへんなおっさんたちをみながら再度、術をかけて適当なところに移転したのだった。


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「よし、ここでいいかな」

多分、この世界の果ての果てだろう。なにもないじめじめした空気の森の中に俺と強制連行した陛下はいた。
陛下はまだ騒いでるが俺が術をかけてそこらへんに転がしているからどうでもいい。
俺は新たな術式で空間を掌握、多角面世界の構築、その他もろもろ、そうして三分後ぐらいには目の前には立派な城が出来ていた。
「相変わらず、俺って天才だなー!」
陛下はというと唖然としながらこの光景をみてた。…大抵、こういうことをしでかすと元いた世界の魔術師たちは俺を畏怖するんだけど陛下は馬鹿なのか阿呆なのか逆に俺に食って掛かってくる。まあ術をかけられてるせいでもごもごとしか聞こえないんだけど。

城の中はなんというか現代式でもあり歴史的な感じでもある、所謂なんちゃって魔王城みたいなゴシックでダークな出来合だ。誘拐犯にはぴったりかもしれない。
城の最上階まで移転するとそこにはそこは建設通り寝室になっておりベット以外なにも置かれていない。俺は同じく移転させた陛下をベットのうえに転がした。
「じゃ、術をといてあげるね」
今度は陛下の額にキスをする。
瞬間、見た目にそぐわず強い拳が一発はいるけど常時回復魔術を使ってる俺からしたら一瞬の痛みだ。
「このっ、何が目的だ!我がレイリアス王国に牙を向けようものなら…!」
「暴れないでよ、今度は少しの自由もなくガチガチに縛り付けちゃうよ」
人間、意外と自由が利かないという環境は恐怖になる。移転中ずっと拘束されてた恐怖を思い出してか陛下はこちらを睨みつけてくるだけになった。
「さて、お偉い国王陛下様様のお名前は?」
「…お前のようなものに名乗る名前などない」
「学習能力ないなぁ」
俺は陛下が馬鹿なことをいうたびお仕置きをすることにした。うんお仕置き、いい響きだ。
次元ボックスから鞭をとりだす。
「ほら陛下、今度からはちゃんと正直になるんだよ」
俺は慈悲の心をこめて鞭で陛下のお腹を弱くぶった。
こんなことされたことない陛下はみじかく悲鳴をあげながら体をのけぞらせる。
フーフーと息を吐きながら俺を殺す勢いで睨みつける陛下にゾクゾクとした快感が体の芯を通った。
やばい、いじめがいがありそうだ。
「もう一発する、それとも名前を言う?」
「…フェリアール・ルシュ・レイリアス」
「じゃあフェールでいいか。俺の名前はサツキ、これからよろしく」
陛下は相変わらず殺意を込めて睨みつけてくる。
「…せっかくの美人なんだから笑顔くらいしてよ」
陛下の態度が気に食わないので鞭を振りかざしてそう言ってみると、よほど温室育ちっぽい陛下は打たれることが怖かったのかなんとか笑顔をつくろうとするものの顔は恐怖と屈辱で濡れていた。
俺はそれだけで今日は十分満足だったので陛下を今日は解放することにしたのだ。
「部屋の中のものは勝手につかっていいからね。じゃ、バイバイ陛下」

僕が背を向けたとたん、明確な殺意が溢れ出る。
…もう、馬鹿なんだから
しかしもっとこの世界のことを解析したかったので俺はそんな陛下を無視して地下にある自分の部屋に向かったのだった。
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