「結婚してくれクローデットたん!」
「間に合ってます」
僕は毎日同じことを言ってるのに誰も学習してくれる気配はない。
魔界に来て一年目、僕はもう嫌気がさしていた。


魔界に落とされてからどうしようか、と悩んでいたとき僕を拾ってくれたのは魔王様だった。
漆黒の髪に僕より沈殿したような赤色の瞳、男らしい顔つきの魔王様は僕のことを気に入り愛妾としてそばにおこうとしたのだ。当然、天界から来てガチガチだった僕は反抗した。魔王様は意外と優しいお方らしく僕が気が済むまで城にいればいいし気が向いたら傍にいてくれるだけいいというのだ。
正直、ありがたかった。
誰も知り合いもいない魔界でしかも堕天使というのは色眼鏡で見られやすい。元天使を輪姦するのを趣味とする輩もいる。そこで魔王様の愛妾という後ろ盾は僕を守ってくれたのだ。
…だけど、寂しかった。
僕を無理やり隷属させた全ての元凶である男、サツキはとんでもなく壊れた人間だ。
破滅願望でもあるのか、すべての行動が危ういサツキに憎んでいたはずなのに段々ほだされていってしまってる自分がいる。そこもサツキの魅力なんだろうか。
サツキは僕に何を頼むわけでもなくただそばにいて欲しいみたいだった。セックスはその付属品。サツキは空っぽで虚しい人間、そう僕は感じた。自分が空っぽだから人を加虐したりすることで何かを埋めようとしている、本当にどうしよーもない人間だ。
はじめはお兄さま以外とそんな行為しようとなんて思っていなかったけどそんな価値観、無駄だと悟った。抵抗してもなにをしてもサツキは僕を抱くし魔界の魔人も隙あれば僕を狙ってくる。なら楽しんだほうがいいじゃないか。せめて自分が苦しくないように。
…こんなの、お兄さまが見てたらどう思うだろう。
一年間でちゃんと4回、4日お兄さまと会ってセックスをした。変わってしまった僕にもお兄さまは相変わらず愛を囁いて精を出す。はじめは嬉しくて泣いていたはずなのに段々とそれは自分の醜さと、もしかして子供を宿してしまったら、という恐怖で泣くようになった。お兄さまは気づいてるのかどうなのか、変わらず愛を囁く。
「…デット、クローデット!」
「…魔王様?」
「私を無視するとはいい度胸だな?」
「考え事をしていたから」
「春の会議の例の大天使についてか?」
この方はなんでもお見通しらしい。
魔界のじめじめとした空をみながら僕は動揺した。
「そんなに苦しいのならでなければいい。私の愛妾として蜜月を過ごすのはどうだ?」
「お断り!」
無礼な僕の態度にも魔王様は咎めることなく笑うだけだった。もう、憎めない。
「次期大天使だった堕天使と魔王の子供、最高に面白いと思うぞ?」
そんなことをいいながら僕のお腹を撫でてくるのはやめて欲しい。
「…魔王様って気がおかしいんじゃないの。」
「お前が魅力的すぎるのがいけない」
「僕のせいじゃないし」
変わらず魔王様は僕をなで繰り回してる。
この方の触り方はイヤらしさがなくて好きだ。お兄さまに似ている。
「ところで例の主はどうなんだ?」
「サツキは最近また新しい術に凝ってるみたいで呼んでくないよ」
僕は思い出して不機嫌になった。自分勝手に僕を呼んで弄ぶくせに…
「そうか、なら尚更私との蜜月にしたほうがいいな」
「ご冗談は年齢だけにしとけば?」
「厳しいなぁ」
見た目以上の高年齢の魔王様、噂では数百歳らしい。
「クローデット、季節も変わることだし新しい服でも仕立てようか?」
「めんどくさいから嫌」
「じゃあ城を出て海でも見に行くか?」
「魔界の海ってマグマでしょ。そんなの見たくないよ」
「じゃあ何がしたい」
「…なにも」
魔王様は僕の心をすべて読んでいるみたいに優しく頭を撫でてくれる。
そんな魔王さまに頭をあずけながら僕は目を閉じた。


                     ▼

ついに春の会議がきてしまった。
魔界の春は毒花が鮮やかに咲き誇る。空気も心なしかすっきりとしている、気がする。
「…うぅ、吐きそう」
「妊娠か?」
「…魔王さまってたまに本当に死んでほしい」
この日のために魔王さまが勝手に仕立てた新しい服を着ていつものようにブーツに脚を通すけど心はちっとも前向きにならない。
「―さっそく、愛しのお兄さまが猛突進でくるぞ?」

「クローデット!」

「お兄さま…」
「クローデット、大丈夫か?なにかに不自由してないか、寂しくないか、どこか怪我などは…」
「―大天使殿、いくら貴方が兄上とはいえ今は私の愛妾。遠慮して欲しいものだが」
ここで、お兄さまと魔王様のバトルが始まる。
なぜか魔王様はお兄さまを煽るようなことばかり言うしお兄さまは真面目な方なのでそれに真正面から向かっていく。
「ええ、わかってますとも。しかし魔界の人間にこの愛しい繊細なクローデットの世話は大変かと思いましてね」
「ご安心を、私の元で何不自由なく…もちろん肉体的にも不自由なく暮らしていますから」
何を言ってるんだこの魔王は
魔王様と僕が肉体関係があることを明確に漂わせた発言にお兄さまの我慢は一気に限界に達したのがわかった。

「お、お兄さま…早く二人きりになりたいですっ!」

お兄さまが口を開く前にどうにか口を挟む。お兄さまの腕に抱きつくとすこし冷静になったのか口を閉じてくれた。

「…では私はクローデットに用があるのでこれで失礼する。」
「ああ、昨晩も無理をさせすぎてしまったからな。なるべく優しくしてあげてくれ」

この魔王は!
断じて魔王様との間にそういう関係はない。だけどお兄さまにはそれがわかるはずもなく…
無言で微笑んだお兄さまの微笑みは壮絶に美しくて怖かった。


                    ▼

「お兄さまっ、まってお兄さまっ…!」
身長が高くて歩幅が大きなお兄さまに引きずられるようにお兄さまの客室に連れ込まれる。
僕はお兄さまについてくだけで精一杯で息を乱していた。
「お前は、あの魔王に…!」
「ち、違うよお兄さま。僕と魔王様は別に何も…」
「あの魔王も魔王だ。こんな年端もいかない華奢で壊れやすい子に手を出すなんて…!」
お兄さまも魔王様と同じくらいの身長と体格である。
イライラしたようにお兄さまは室内を歩く。
「ああクローデット、これならあの時私も堕天しとけばよかったのですね。そうすればお前を守れたのに」
「お兄さま…魔王様とは本当に何もないから…!」
そういう僕をお兄さまはどう考えても信用していない瞳でみる。
「別に隠さなくてもいい。クローデットが魔王の愛妾だからこそ貞操を守れているのはわかっています」
お兄さまは信じてくれない。すこし、距離を感じてしまう。

「…僕はお兄さましか愛してないから。だから、お兄さまも僕のことだけ考えてよ」

そう言うと、お兄さまは部屋の隅に佇んでいた僕をギュッと抱きしめた。
お兄さまの香りと暖かい体に包まれるといつでも安心する。

「身長は…少しは高くなりましたか?」
「うん伸びたよ」
「ご飯はちゃんと食べれてますか、魔界のものなどゲテモノばかりでしょうから」
「大丈夫、結構フツーな感じだから」

会うたびに同じやりとりをする。お兄さまが僕のことを心配してくれてる、そのことが純粋に嬉しい。
また全身をじっくりお兄さまに見られると誇らしいのと同時に恥ずかしさがこみ上げてくる。

「…可愛すぎる」

そう言うとお兄さまはなんのスイッチが入ったのか僕の服を脱がせにかかってくる。
「お、お兄さま!」
「そんな可愛い格好をしてたら変な虫を呼ぶだけです。もう少し簡素な格好をしなさい」
結構暴論だ。
でもお兄さまのいいつけをやぶるとろくなことにならないのは学習してるので頷いておく。

上半身を瞬く間に裸に剥かれてしまう。
僕はいつもここで死にたくなるぐらい自分が嫌になる。胸の先端につけられている飾りはサツキの趣味で勝手に外すことはできない。お兄さまはそれを目を細めて冷たくじっくりと観察した。
「…お兄さま、あんまり見ないで」
「隠してはダメですよ、自身と向き合いなさい」
そんな、聖書みたいなこといわなくたって
胸を隠そうとする僕の手をお兄さまはどけてしまう。
「ズボンは自分で脱いでみなさい」
そう命じられたら抗うことなんてできない。
半ズボンをするりと落とすとそこにはサツキの趣味であり魔王様の趣味でもある淫らな女性用の下着があった。
お兄さまはそれをみるとますます眉間のしわを濃くしてしまう。
「…それは?」
「僕の主と、魔王様が…」
その瞬間、窓際にあった花瓶が割れた。
お兄さまの魔法が無意識に飛び出していたのであろう。
しかしお兄さまは気にすることもなく詰問してくる。
「主のほうも極刑に値しますが…魔王はクローデットに何を強いているのか正直に言いなさい」
「魔王様は…優しいよ。僕を無理やり犯そうともしないしたまに冗談で子供を産んで欲しいとかセクハラされることはあるけど…」
―ガシャン
二個目の花瓶が割れた。

お兄さまはあの日のように僕を寝台まで引きずっていくと投げるように僕を寝かせた。
「お兄さま、どうかなさっ、あぁっ!」
胸の先端の飾りを強く引っ張られる。
「やはりクローデットは私が管理しなければ…」
不穏なことをつぶやきながらお兄さまは僕の下着を脱がせる。簡単に、脱げてしまったそれをお兄さまは「没収です」といって自分の次元空間にしまってしまった。
ブーツ以外なにも着ていない姿が恥ずかしくて隠してるとお兄さまの魔法の糸で手を縛り付けられれてしまう。
「クローデットは知らないところでどんどん淫らになっていくみたいですね。それじゃあ天使に戻れませんよ」
「だ、だってぇ…!」

「だってもこうもありません。今日は忍耐を覚えなさい」


―パンッ
強く、臀部を叩かれる。
「天界で学んだ奉仕精神はどうしたのですか?」
「ご、ごへんなしゃい!」
お兄さまの芯を持ったソコを口いっぱいに頬張りながら奉仕する。僕は触ってはいけないと言われてるのについつい興奮して自身のものをいじろうとするけど冷酷なお兄さまによって許されない。
僕がなにか粗相をおこすたびお兄さまの手は僕の臀部を叩く。
「まったく魔界ではまともに生活していないみたいですね…随分堕落している」
そう言いながらも優しく髪を梳きながら頭を撫でてくれるお兄さま。
僕は顎が痛くてこういうコトは苦手なんだけどお兄さまならなんでもできる。
段々お兄さまが興奮してきてソコが限界になっていくのが分かってきた。先走りは苦いけどお兄さまが喜んでくれるなら全然苦しくない。ちょっとでも気持ちよくなってもらおうと必死で愛撫する。
「っ…!」
たくさんのお兄さまの精液が口の中をいっぱいにして頭がふわふわしてくる。口の端から垂れた精液がカーペットにシミを作っていくのを見てお兄さまは呆れてしまったようだ。
「下品ですよクローデット」
「ごめんなさい・・・」
咎められてしょんぼりしてしまう。
「こんなところも汚して・・・」
胸の先端に伝っていった精液をお兄さまが拭う
少し触られただけでもすっかり性感帯になってしまってるので鼻に掛かったような喘ぎ声が出る。
そんな僕をますます呆れたように見てお兄さまは精液のついた指先を舐めるように命じた
「んっ、ふぅ、んん」
頑張っておしゃぶりしているとお兄さまはまたはしたないと言って臀部を叩く。散々焦らされている淫らになってしまった身体はそれすら快感になっていった。
「・・・天界にいた時には考えられないほど淫らな事をしている自覚はあるのですか?」
「あ、あるよ・・・でも、キモチイイの・・・」
――だからはやく犯して
懇願するようにお兄さまを見るとどこか焦ったようにお兄さまの上に乗り奉仕していた僕を押し倒した。

「本当に、会えないうちにどんどん淫らになっていく」
独り言を呟きながら僕のアナルに指を埋める。やっと与えられたお慈悲に僕は歓喜した。
「ここも、随分簡単に受け入れるようになりましたね?どれだけ薄汚い人間や魔人に犯されていることやら」
僕が身体を許しているのはお兄さまとサツキだけだけどなんだか嫉妬しているようなお兄さまが可愛らしくて何も言わないでおいた。
指がイヤらしくナカを動き回り解していく。たまに掠めるイイところはお兄さまはわざと無視するようなことをする。
「ぁっ、ああ、んぅ」
「・・・私だけのクローデット、早く私の子供を孕みなさい」
そう言って、ナカを強く突かれるとひとたまりもなくて僕は達してしまう。
ああ、お兄さまの子供を孕んでしまう
こんな汚い身体なのに、大天使であるお兄さまの種子を受け入れるなんて・・・
「変なことは考えてはダメですよクローデット、貴方は私にすべてを委ねるだけでいい」
「おにーさま・・・」
そう言って微笑むお兄さまは相変わらず美しくどこか憔悴していた

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「クローデット、ようやく解放されたか」
ベットの上でお兄さまとの性交でへとへとになってる僕を見て楽しそうに魔王様は笑った。
「とゆーより魔王さま、お兄さまを煽るのやめてってずっと言ってるよねっ!」
「私の長すぎる寿命の楽しみの一つを奪うなよ」
「もうっ!」
お兄さまはもう天界に帰ってしまった。
僕の私室にはいつもの通り真っ赤な瞳をした魔王様と僕がいる。
「…いつになったらお前は私のものになるかな」
「そんなこと、天地がひっくり返ってもないよ」
不躾にそういう僕を魔王様は微笑んで聞いていた。
怒るわけでもなく嫉妬するわけでもない、相変わらず掴みどころのない魔王様に僕は居た堪れなくなって枕に顔をうずめた。
次第に眠くなっていく頭に逆らえず僕は眠ったのだ。
そんな僕をきっと魔王様はずっと見ていたのだろう、ずっと。

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