「そろそろ、会いに行かなくちゃな…」
地下室はかび臭いから嫌だという理由で地上に離れを作らされそこで数日間淫行に耽っていたがずっとこうしているわけにもいかない。
クローデットは少し長くなってきた俺の髪を編み込んでど派手な真っ赤なリボンで結んでいた。
「おい、真っ赤なリボンはやめろ」
「はーい」
不満足そうに結んだリボンの色を一瞬で白に変えてしまう。
「クローデット、おれは城に戻るからお前はもう好きにしててくれ」
「ふーん、どうせ僕はその場限りの性欲処理人形だもんね。もうサツキがどこにいったって知らないよ」
これが本音だとは思いもしない。この悪魔はときおりこういうことを言ってこちらを動揺させてくるのだ。
俺はベットの上でごろごろと横になるクローデットを放って陛下の元へ向かった


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「…随分、疲れている感じだね」
「……―」

一応、自動式のメイド人形は作って派遣させといたから見た目てきには完璧だが表情は憔悴しているみたいだった。

「…外にでも散歩しにいく?」

その言葉が、なぜ陛下の琴線に触れてしまったかはわからない。座っていた机の上にあったティーカップを投げつけられた。
熱い紅茶が顔にかかる。白いリボンに茶色い染みができた。

「陛下、あの夜はごめんって。まさか陛下が経験あるとは思わなくて」
「…あのぐらい、何回もした。別に気になんてしてない」

いや、絶対してるでしょ。
「自動人形を行かせたんだけどちゃんと働いてくれた?」
「…アレは気味が悪い。一生あんなもの見せるな」
随分、陛下は気に入らなかったらしい。
一向に目も合わせてもらえず沈黙が降りるだけ。俺は陛下を元気づけようかなぁ、と思って再度外に行くことを誘ってみる。
「本物の薔薇を咲かせたんだ。陛下にも確認して欲しいんだけど…」

「そんなもの、あの恋人にでもやらせればいいのではないか?」

…浮気がバレた男ってこういう気持ちなんだろうな。
自然を装って内心冷や汗で窓際による。…あぁ、ばっちりあの花畑が見えるところだ。クローデットめ、やってくれたな。

「あの子は花の種類なんて興味ないよ。陛下に俺はみてもらいたいんだけど」

別にいいじゃないか。
陛下は誘拐された被害者で俺は加害者、それに恋人同士でもなければなんでもないんだから。
俺は開き直ることにしたのだ。

「さ、行こう」

無理やり陛下の手を引いて連れていく。最初はその場で粘っていたが諦めたようについてきたのだ。


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「白薔薇を初めに咲かせてみたんだ」
「…ふん」
そう言いながらも陛下は薔薇を撫でた。花は好きらしい。
「次は何がいいかな、桜とかいいかもね」
「サクラ…?」
「あ、ここの世界ではないのか」
不審そうにこちらを見る陛下に桜がどれほど美しく儚いかと説明する。
「昔、ある貴族が儚く散る咲くを嘆いて詠ったそうだけどそれに違う人が儚いからこそ美しいと返したそうだよ」
「…私は、前者だな。大切なものがなくなってしまうのは、苦しい」
そういって、たかが花の話なのに顔をしかめる陛下は白薔薇よりも清純としてて儚かった。

「じゃあ陛下のために散らない桜を作るよ。そうすれば――」

そうすれば?
俺はなんと言おうとしたんだろうか。
ぎこちなく微笑む俺を陛下は不審そうに見ていた。


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「ほら、恥ずかしがらないでよ」
「お前と風呂に入るぐらいなら死んだほうがましだ」
ぐぐぐっと手を引くのに陛下は意外と力強く一緒にお風呂に入ってくれない。
前回のこともあって警戒されてるのか、陛下はこっちを睨みつけていた。
「別にさぁ、俺だって可愛い子と性欲処理をしてきたばかりだからそう飢えてるわけじゃないんだよ。だから陛下のことも襲わないって」
わざと陛下が自意識過剰みたいな言い方をすると陛下は一気に赤面した。
「ね、裸の付き合いってことで」
そう言って陛下の肩を抱くと、いかにもといったふうに渋々頷いてくれたのだ。

「陛下の肌って絹みたいにすべすべだよね」
女の子みたい、というのは言わないでおいておた。
「…昔、同じことを言われたことがある」
「あ、もしかして陛下の恋人?初体験の相手?」
「…二人目の相手だ」
あーそういう系か…ってどういう系だよ。
俺は陛下が処女じゃないのは納得したもののこのいかにも偉そうで高慢そうな陛下が誰かに犯されるなんて死んでも許さなそうなのにどうしてか、それが気になっていた。
それも二人目、なんてものがいるならどんな過去なんだろうか
「陛下はさ、どういう経緯で男と寝たわけ?」
「下劣な物言いだな…。人の話が聞きたければ自らのことを語ってからにしろ」
「ま、そうなるよね…。」
また、沈黙が降りる。
俺は下心なしに陛下の体をやさしく洗いながら自分の過去を振り返ってみた。
…うん、やばい。

「じゃあ俺の事を話す代わりに陛下の過去も話すこと、いいね?」
俺は腹をくくったが陛下はめんどくさそうにこちらを見るだけであった。
「…別にそこまで興味があるわけじゃないが、お前という最悪な性格が形成された過程は今後の教訓として知っておくべきだな、語れ」
これは了承されたのだろうか。うん、されたってことで

「俺はね陛下――


俺は元いた世界では天才魔術師として名が通っていたワケだけど、別に最初から天才だったわけじゃない。
いわゆる俺は特異体質で平凡な両親から生まれたイレギュラー、両親が俺が赤ちゃんの頃に捨ててしまうような迷惑な存在だった。
それで引き取られた修道院は表は普通の教会だけど裏では魔術に通じている隠れ蓑みたいな場所であった。そこで運良く、運悪く、才能を見込まれた俺はそこそこ修道院で幸せに暮らしていた世界から一転、魑魅魍魎の魔術の世界に足を踏み入れることになる。
はじめは幼い魔術師候補生が教育される訓練所みたいなところで冷酷になることを強いられた。
毎日仲間だった子たちと男女関係なくなんの技術も持たずナイフ一枚で殺し合う日々、当然精神的にはおかしくなっていって自殺していく子とかもたくさんいて、だけどそれ以上に生きるために殺された子の方が多かった。一定以上のレベルに達すると変な癖がつかないように殺し方を教えられる。
これだけ聞くとただの殺人者生産工場みたいだけど別にアッチはそれが目的じゃない。将来なにも持たない凡俗な人間と魔術師が戦う際、凡俗な人間には化学兵器というものがある。それに対抗するには魔術じゃ少しタイムラグがある。だから生身で魔術が使えてそれでいて殺しもできる人間をたくさん育成することを目的としてたんだ。
そう、魔術師は魔術師の存在すら知らない凡俗な人間を隷属させようとしていた。
そんなこんなで殺し合う日々で俺は飛び抜けて生身の殺しも魔術の腕もよかった。想像するだけで身体がそのとおりに動く、はじめはそこの職員たちは俺を褒めていたけど段々違和感を感じるようになっていった。
『あまりにも出来すぎる』
『生身でここまでできるのはたかが子供の能力じゃない』
そこからはすぐに全てバレた。
俺は、俺自身すら気づいてないままに魔術を使って身体中の能力を底上げして人を殺していた。とんだ詐欺だ。
そして俺は求めていた人形と違ってきた出来損ないの人形になってしまったわけで処分されることになった。だが、そこで俺の噂をききつけてやってきたのが『師』だった。
見た目は壮年の男性である師は処分されかけてた俺を引き取ってそばに置いた。はじめは感謝したけどそんなの、すぐ裏切られた。

俺は暴かれ犯され施設にいた時よりも人形として扱われた。

飾り立てられ魔術を教え込まれ『師』にとって邪魔な人物はどんな手段をとっても殺すように命じられた。師自身が俺をその手で犯して楽しむこともあった。師の仲間に祭壇の生贄みたいに捧げられた何日もクズみたいな魔術師たちの相手をしていることもあった。死にたくてしょうがなくて何度も死のうとしてもどうもうまくいかない。俺は魔術師としては力が強すぎて寿命にならないと死ねないほどの強力な回復の魔術が掛かっていたんだ。
だから考え方を変えて俺を害するモノを殺せばいいと思った。
『師』とその仲間はそれなりに強大な力を持つ魔術師たちだったから手こずったけど一人一人殺すたびにその魔力が結晶化された心臓を自身の力として取り込めることできる。その度に俺はほかの魔術師より何歩も先に行ける。禁呪である魔力食いをするたびに師たちの何十年も溜め込んだ魔力を取り入れて俺は強くなっていく。
それからは一人で魔術師として名を通した。
いろいろな術に手を出して遊んでみたり気まぐれにしてみたりした。魔術師側も俺を魔力食いすることで力を取り戻そうとしたけど何分生まれながらのセンスと皮肉にも師たちの魔力のせいで俺を手こずらせる相手なんてそうそういなくて…退屈が極まって異世界まできてしまった。

ってところかな」

話終わる時には俺たちは湯船の中にいた。
重すぎたかもしれない、陛下は俯いて黙り込んでしまう。

「へ、陛下?、そんな感じになられると困るんですけど…」

「お前は、お前は怒りが沸いてこないのか?」
「え、怒ったから殺したんですけど…」
「そういうことじゃ、ない…」

今度は俺が引いてしまう方だった。
陛下のぼろぼろとこぼれ落ちてきた涙が透明なお湯の中に落ちていく。
時折漏れる声からも泣いてることは明確だった。

「別に同情されたくて話したわけじゃないから泣かないでよ…」
「同情、じゃないだろう。お前が馬鹿だから泣いているんだ」

へっぽこ陛下に馬鹿だと言われてしまった。
俺は肩を上下させて泣く陛下が見ていると辛くなっていってどうにか泣き止ましたい。
でも、俺にそんな方法思いつくわけ無い。…こういう時、本当に俺って欠陥人間だなと感じる。
ああ、これがクローデットだったらどれだけ楽だろう。適当にセックスに持ち込めば黙らせることができるんだけど、だけど陛下はそう簡単な相手じゃない。

「あーもう、とりあえずベットの上に行こうよ。俺ベット以外で人を慰められる人間じゃないんだよね!?」


困った俺はぐずぐず泣いてる陛下をひっぱっていつぞやよろしく湯船を出たのだった。
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