「…迷惑をかけた」
「いえいえ」
熱いミルクを無理やりのませたところで陛下はやっと泣き止んでくれたのだった。
目をこすろうとする陛下の手を止めて柔らかいタオルで涙をとってあげる。
「陛下がなんで泣いてたかは知らないけど、とりあえず今はこんな美人さんを好きにできるぐらいすごくなっちゃったんだから変なこと考えないでね」
「…虚しい人間だな」
虚しい、とまで言われてしまった。
確かに否定できない自分がいる。
俺はこの薄暗い雰囲気を買えるようにわざと明るい声で言う。
「それで陛下の過去の話をしてくれるんじゃないの?」
「お前のその話のあとにするのはどんな話だろうと最悪だな…」
「ちょっと約束は約束でしょ」


渋々、といった様子で話してくれたのはなんとも陛下の周りの男性は苦労したんだなという話だった。

「その宰相、めちゃくちゃ可哀想」
「レジナルドがなぜ?」
「なぜって…俺は陛下とは恋したくないよ」
「それはこちらも同じだ」
陛下に恋なんてしたら一生思いに気づいてくれることなく残酷なことばかりされそうだ
…内心、少し恐怖していた。
陛下は話を聞く限りではその宰相に想いを寄せている、のだろうか。あちらから身体を求められて反抗したとはいえ結局流されてる。陛下は流されやすいへっぽこだけどそれだけじゃ、ないのかもしれない。
別に陛下が誰と恋をしようとどうでもいいはずなのに、焦りが湧いてくる。
…これも陛下があんな風に泣いたりするからだ。
初めて、しっかりと過去の話を人にしたかもしれない。
あちらの世界でもそこそこ友人はいたがみなどうかしている奴ばかり、しかも深い関係でもなかったのでこんな聞いても楽しくない話などしたことがなかった。
―あぁ、だめだ。変に感化されてはだめだ。
俺は陛下みたいな輝いているまともな人間と交わえるような人間じゃない。日陰者が日向にいこうとしても無駄な話だ。

「…陛下、一人で寝れる?」
「寝れるに決まってるだろう」
「あはは、そうだよね…」

なんだか無性に寂しい。
俺らしくもなくすがるような事を言ってしまった。
この気持ちを汲み取ってくれるほど優しい人間ではない陛下はすでに眠そうだ。

「じゃ、陛下おやすみ。俺も離れに戻るから…」
「…あの、恋人のもとに行くのか」
「恋人じゃないけど、まあそうだね」

陛下はとたん不機嫌になってしまった。
お、嫉妬か?と謎の期待をした俺だったが陛下はそうではないらしい

「過去からして真人間じゃないのなら少しは節度をもって人間らしくしてみたらどうだ?」

…この陛下、ぶっ殺してやろうか。
あまりに失礼すぎる発言にこめかみがぴくぴくしている。
「…人肌が欲しいんだよ。誰かさんのためにクソめんどくさい過去を話すハメになったからね」

「…なら、ここで寝ればいいだろう」

ん、と陛下は自分のとなりのスペースを叩いた。

「まじですか…」
「…嘘はつかない」

これは、ラッキースケベのチャンスか?
俺は嬉々として陛下のとなりにいそいそと入る。
陛下はまるで初夜の花嫁みたいに顔を赤くしていた。それに俺が気づいて少し笑ってしまうといじけたように布団の中に隠れてしまった。

「陛下?、なんで隠れるんですか?」
「うるさい、お前など寝台から落ちろ」

素直なのか素直じゃないのかよくわからない陛下である。
さきほど言ったとおり人肌が欲しいので陛下のシルクのパジャマからのぞくうなじに興奮しながらも身体を抱き寄せる。
「…いい匂いだね陛下」
「風呂に入ったから当たり前だろう」
「陛下だけの匂いだよ」
「…変態か」
多分、俺は陛下専門の変態だ。
はじめは超ムカついたし今もかなりの確率でムカツくがなんだかほうっておけない。へっぽこだからだろうか。陛下の金色の髪がシーツに波打ってるところとか紫の瞳が輝いたり憂いを帯びたり殺意を浮かべてたり、そんなところも可愛いと思ってしまう。
「陛下、陛下のこと大切にしてみるよ」
「当たり前だろう」
でた、王様発言。
だけど今はそれでいい。
俺は満足しながら陛下の首筋に顔をうずめて眠りに就いた
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